辻 大士, 高木 大資, 近藤 尚己, 丸山 佳子, 井手 一茂, LINGLING, 王 鶴群, 近藤 克則
日本公衆衛生雑誌 69(5) 383-393 2022年 査読有り
目的 地域診断により要介護リスクを抱えた高齢者が多く居住する地域を特定し,モデル地区として重点的に通いの場の立ち上げや運営を支援することで,地域レベルの指標が改善し地域間の健康格差が縮小するかを検証することを目的とした。方法 神戸市と日本老年学的評価研究は,要介護認定を受けていない高齢者を対象に全市で実施したサンプリング郵送調査データを用い,市内78圏域(1圏域≒中学校区)の地域診断を行った。複数の要介護リスク指標で不良な値を示し,重点的な支援が必要と判断された16圏域を2014~19年度にかけてモデル地区として指定し,市・区・地域包括支援センター・研究者らが連携して通いの場の立ち上げや運営を支援した。さらに,4回(2011,13,16,19年度)の同調査データ(各8,872人,10,572人,10,063人,5,759人)を用い,モデル地区(16圏域)と非モデル地区(62圏域)との間で,中間アウトカム9指標(社会参加3指標,社会的ネットワーク2指標,社会的サポート4指標)と健康アウトカム5指標(運動器の機能低下,低栄養,口腔機能低下,認知機能低下,うつ傾向)の経年推移を,線形混合効果モデルにより比較した。結果 2011,13年度調査では,全14指標中13指標でモデル地区は非モデル地区より不良な値を示していた。その差が2016,19年度調査にかけて縮小・解消し,年度×群の有意な交互作用が確認された指標は,中間アウトカム4指標(スポーツ・趣味関係のグループ参加,友人10人以上,情緒的サポート提供),健康アウトカム3指標(口腔機能低下,認知機能低下,うつ傾向)であった。たとえば,2011年度の趣味関係のグループ参加はモデル地区29.7%/非モデル地区35.0%であったが,2019年度には35.2%/36.1%と地域差が縮小した(P=0.008)。同様に,情緒的サポート提供は83.9%/87.0%が93.3%/93.3%(P=0.007),うつ傾向は31.4%/27.2%が18.6%/20.3%(P<0.001)となり,差が解消した。結論 地域診断により要介護リスクを抱えた高齢者が多く住む地域を特定し,住民主体の通いの場づくりを重点的に6年間推進することで,社会参加やネットワーク,サポートが醸成され,ひいては地域間の健康格差の是正に寄与したことが示唆された。(著者抄録)