塙 真輔, 三橋 暁, 石川 博士, 碓井 宏和, 佐藤 明日香, 高木 亜由美, 鈴木 義也, 羽生 裕二, 松岡 歩, 生水 真紀夫
関東連合産科婦人科学会誌 56(4) 475-480 2019年11月
子宮体癌に対する腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術は,開腹手術と比較して低侵襲で治療成績も同等とされるが,80歳以上の高齢者に対する報告例は少ない.高齢者は,内科合併症や腹部手術既往による腹腔内癒着,他臓器悪性腫瘍の合併など,周術期の留意点が複数存在することが多い.今回,直腸癌手術歴のある89歳の子宮体癌と原発性肺癌の重複癌患者に対し,腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術を施行した症例を経験したので報告する.患者は89歳.84歳時に直腸癌手術既往を有し,高血圧,糖尿病,高脂血症を合併していた.当院精査で,子宮体癌IA期を推定したが,同時に原発性肺癌IA2期の重複癌と判明した.術前評価では,高齢ではあるが,PS1,ASAscore2であり,手術可能と判断した.また,術後早期に肺癌治療を開始できるように,開腹術より低侵襲と考え腹腔鏡下腟式子宮全摘手術を選択した.直腸癌手術既往による広範囲の腹腔内癒着のため,手術は3時間41分要したが,出血は少量で,術後回復も早くADLの低下なく術後8日目に退院した.高齢者の悪性腫瘍手術では,術後のQOLの低下を防ぐことも重要で,腹腔鏡手術は高齢者に考慮できる有効な治療法と考えられた.しかし手術時間の延長,気腹や頭低位に伴う循環への影響を伴うため,高齢者に対する腹腔鏡手術の安全性は今後も検討が必要である.(著者抄録)