矢島 大介, 石原 憲治, 武市 尚子, Raudys Romas, Čaplinskiene Marija, Biržinienė Vilija, 齋藤 久子, 早川 睦, 咲間 彩香, 猪口 剛, 槇野 陽介, 本村 あゆみ, 千葉 文子, 鳥光 優, 石井 名実子, 岩瀬 博太郎
千葉医学雑誌 90(4) 123-130 2014年 査読有り
生体法医学とは,生体での損傷を記録し損傷の形成機序や発生時期を評価する法医学業務である。日本では法医学の主要な業務とはみなされていないのに対し,ヨーロッパでは解剖と並んで主要な業務とされる。ここで作成された文書は,法手続きの正式な証拠,または労働災害補償や傷害保険の請求に用いられ,さらに鑑定書の所持が引き続く暴力の抑止力となるなどの役割もある。リトアニア法医学研究所の生体法医学で扱った事例は2012年で19,933例,このうち約98%が損傷の検査,約2%が性犯罪に関する検査であり,警察からの依頼が全体の約86%を占め,次いで個人的な依頼が約13%である。当研究所での生体法医学の実務は,生体に認めた損傷の性状の記録,損傷の形成機序や発生時期の判断,重症度の判定,そして性暴力事案の証拠検体の採取である。重症度の判定は刑法の分類を受けて定められた「健康障害の程度を決定するための規則(Rules For Determining The Extent Of Health Impairment)」に従って決定される。 これらの業務は,リトアニアでは資格を有する法医学専門医が関係省庁の合意で定められた判定基準に従って検査を行うが,日本ではそれらを行う医師に関する規定はなく,判定基準もないため,判断にばらつきが出る可能性がある。また書類作成や裁判出廷などが臨床医の負担となる可能性もある。 将来的には司法側の科学的証拠の重視やその質の維持への関心の高まり,そして小児虐待届出事例の増加などに伴い,生体法医学の必要性は増してくると考えられ,医師同士の協力体制の構築は必須のものとなると考えられる。臨床医と法医学医師との連携により,生体情報と死後情報が有機的につながり,市民の安全のために還元される