米村 千代
家族社会学研究 13(2) 61-61 2001年
17, 18世紀の士族にあって誰が「家」を継いだのかを計量的に明らかにすること, それが本書の主テーマである。分析にはおもに家譜が用いられている。全14章からなり, 1章で概念規定や研究上の立場が示されたのちに, 盛岡南部藩, 秋田佐竹藩, 会津藩, 加賀前田藩, 佐賀鍋島藩, 萩毛利藩それぞれの藩士の「家」, さらに, 鹿児島島津藩藩主, 那覇久米村士族, 首里士族における家系の継承が考察される。盛岡南部藩に関しては, 加えて家系の断絶, 周辺成員にもそれぞれ1章がさかれる。後半には, 十万石以上の大名における家系の継承, 南部藩公族と首里士族における家系の継承の比較も試みられる。第2章以降の各章は, 基本的に地域ごとの分析である。可能な藩については, 長男以外の継承事由や養子の位置づけ, さらには地域的差異, 時間的変動, 階層的差異が考察される。各章の冒頭に分析可能事例を明記し, 継承件数, 先代家督者の子の数, 男子数, 先代家督者との関係別にみた家督継承者, 養子件数などが, 史料が許す限りにおいて石高別, 時代別に示され, これらの数値を基礎として副題にある「誰が『家』を継いだか」を明らかにしていく。<BR>分析の主点の1つは, タイトルに掲げられている「人口」的要因にある。どの地方においても長男相続を原則にもつ共通性があり, 同時にその補完システムには柔軟性があったとするのが本書に通底する説明である。また, 17, 18世紀を比較して, 18世紀において長男による継承が減少傾向にあることも地域的共通性をもつという。その変化に際しては飢饉等の人口学的要因の影響が示唆される。長男以外が相続している場合, 第2の選択肢として弟が継ぐか, 次三男か養子か, あるいは婿養子の誰が選ばれるかについては, 地域的差異があるという。たとえば加賀藩における子の数の少なさ, 養子の多さ, 佐賀藩における子の数の多さと実子継承の多さ, 萩藩における婿養子の多さ, 島津藩における異姓養子の多さなどが, 地域的特徴とされる。<BR>地域的・時代的・階層的差異が, 本書で随所に指摘される人口学的要因に加えて, 近世の政治的・文化的システムとどのように関連しているのか, たとえば本書の表現を借りれば, 「制度主導型」なのか「状況主導型」なのか, もちろん断定するのは容易ではないものの, さらなる興味を喚起された。史料から明らかになることについて, 忠実に解釈, 言及している点は本書の魅力である。と同時に, これだけさまざまな地域をみているのであるから, それらに通底する大胆な見解を示してくれるのもまた読み手としてはおもしろかったのではないか, とつい欲張りな思いも抱いてしまった。具体的な数字で継承の実態を示してくれる本書は, 異なる階層, 身分の「家」研究に取り組んできた評者にとってはもちろんのこと, 広く日本の「家」に関心をよせる読者層にとっても興味深い研究であることは間違いない。