堀口涼子, 可知悠子, 堤明純
厚生の指標 70(2) 26-32 2023年2月 査読有り筆頭著者
目的 日本において,マタニティハラスメント(以下,マタハラ)と職場環境要因について調べた研究はほとんどない。本研究では,妊娠中の従業員を対象にインターネットによる横断調査を実施し,マタハラと関連する職場環境要因について,探索的に検討することを目的とした。方法 COVID-19による日本における最初の緊急事態宣言中であった2020年5月22日~31日の期間に,就労妊婦(妊娠判明時に就労していた女性を含む)379名を対象とし,インターネットによる横断調査を実施した。マタハラは,国のガイドラインで禁止されている16の不利益取扱いを1つ以上受けているかどうかで定義した。分析は,ロジスティック回帰分析を用いた。結果 対象者379名中,マタハラの経験がある者は97名(25.6%)であった。年齢や妊娠週数を調整した全変数調整モデルにおいて,企業規模が1,000人以上と比較して,1-29人(オッズ比(OR):3.55,95%信頼区間(95%CI):1.49-8.45),30-299人(OR:2.66,95%CI:1.29-5.51)の環境でマタハラの経験が多かった。一方,上司からのサポート(OR:0.80,95%CI:0.69-0.92)の得点が高いほど,マタハラの経験は少なくなる傾向がみられた。全変数調整モデルでは有意ではなかったが,無調整モデルにおいて,雇用形態では正社員と比べてパート社員で,職種では管理職・専門・技術職と比べて営業・販売職・サービス業で,マタハラに対応する相談窓口の設置に関しては「ある」と比べて「ない」環境で,有意にマタハラの経験が多かった。一方,勤続年数が長いほど,同僚のサポートの得点が高いほど,マタハラの経験は少なくなる傾向がみられた。結論 職場環境要因として企業規模が小さいことはマタハラの経験が多いことと関連していた。一方,上司からのサポート得点が高いことは,マタハラの経験が少ないことと関連していた。また,パート社員,営業・販売職・サービス業,マタハラ対応相談窓口の設置がないこともマタハラの経験が多い傾向がみられた。同僚からのサポート得点が高い,または勤続年数が長いとマタハラの経験が少ない傾向がみられた。特に規模の小さい企業側は,マタハラを予防するために,法律に沿ったマタハラ防止対策を講じるとともに,上司や同僚からのサポートの高い職場環境を作る必要がある。(著者抄録)