足立明彦, 堀口健太郎, 樋口佳則, 松谷智郎, 原彩佳, 久保田真彰, 菊地浩, 岩立康男, 神戸美千代, 長谷川安都佐, 小藤昌志, 伊原史英, 大熊雄介, 堅田浩司, 花澤豊行, 岡本美孝
千葉医学雑誌 93(4) 151‐156-156 2017年8月1日
【目的・背景】重粒子線治療は本邦が実運用に成功した技術である。我々は重粒子線治療後に誘発された二次性腫瘍の初の臨床2症例を経験し一昨年および昨年,国際学会にて発表した。本研究では,その臨床検体を用いた解析から染色体構造の変化を捉え得たので報告する。【症例報告】症例1:外耳道癌に対する重粒子線照射の4年後,片麻痺・失語・てんかん発作で発症した側頭葉病変で,摘出した腫瘤の病理は原疾患(扁平上皮がん)と全く異なる,海綿状血管腫であった。周囲脳には硝子化など放射線誘発性変化を伴っており,これら複数所見より重粒子線により発生した腫瘍であることが示された。症例2:上顎洞未分化癌への重粒子線照射の13年後,歯痛・頬腫脹・てんかん発作で発症した,眼窩から中頭蓋窩(側頭葉先端)まで拡がる腫瘍で,生検により重粒子線による二次性の骨肉腫と病理診断された。腫瘍は広範に浸潤しており,耳鼻咽喉科および脳外科による合同手術を行った。【結果】G-band染色ならびに腫瘍CGH+SNPアレイによる分析を行ったところ,欠失・逆位・転座を含む複数の染色体構造異常を見出だすことができた。【考察・今後の計画】以上より,X線・ガンマ線照射後に報告のある誘発腫瘍が,重粒子線治療後にも起こりうることを証明した。また,重粒子線誘発腫瘍においてgeneticな変化が起きている可能性を示した。但し同一腫瘍検体内に複数の個別の変異が含まれていることからは,構造変化を伴わず現時点で検出できていない共通する遺伝子異常が存在している可能性も示唆され,今後は塩基配列決定などにて,詳細な変異部位,更には腫瘍関連遺伝子の同定を目指す。(著者抄録)