江口 和, 折田 純久, 稲毛 一秀, 志賀 康浩, 大鳥 精司
整形外科 73(6) 590-596 2022年5月
<文献概要>はじめに 社会の高齢化に伴い,脊椎疾患患者が増加の一途をたどっており,米国では国民の約3割が慢性疼痛を有し,年間8兆円の医療損失を生じているとされ医療費高騰の一因となっている.痛みは局所の刺激から末梢神経,脊髄を経由して大脳に伝わり,痛みとして認識される.近年,神経機能イメージングとして,脳機能に関してはfunctional MRI(fMRI)やMR spectroscopyが盛んに行われている.一方,腰神経障害は腰痛・下肢痛の原因となるが,無症候性の椎間板変性およびヘルニアがしばしば散見され,従来のMRIでは画像上の神経根圧迫が必ずしも痛みの原因とはならないことも多く,画像診断が進歩した現代でも,損傷神経の可視化,痛みの定量化など機能評価は不可能であった.もう一つ,画像診断のなかで解決されていない課題に,腰椎椎間孔狭窄の画像診断がある.腰椎椎間孔狭窄は脊椎退行性変化により椎間孔内外で神経根・腰神経が絞扼を受ける病態であり,同部位には痛覚受容器である後根神経節が存在し,激しい下肢痛を生じ,難治性である.この領域はMacnabがhidden zoneと紹介したごとく,画像診断法が進歩した現代でも見落とされやすく,手術成績を悪化させる一因となる.特に椎間孔狭窄の手術は固定術となることが多く,診断が重要となる(図1a).腰椎椎間孔狭窄の画像診断は,単純X線検査,CT,MRI,さらに選択的神経根造影・ブロックなど機能的診断を組み合わせ総合的に診断する.従来のMRIでは脂肪像の消失として診断されるが,偽陽性率は30〜40%と報告され診断困難である(図1b).このように現在のMRIでは脊髄を分岐した脊髄神経,腕神経叢,腰神経など外側病変を画像診断することは困難であり,新しい画像診断法が望まれている.近年,MRI装置の高磁場化やパルスシーケンスの改良に伴い,より高分解能のニューロイメージングが可能になった.MR neurogaraphyは,造影剤を用いることなく非侵襲的かつ選択的に末梢神経を描出する方法として,拡散テンソル画像(diffusion tensor imaging:DTI),拡散強調MR neurography,などさまざまな手法が報告されている.本稿では,DTI,拡散強調MR neurographyによる脊髄神経由来の痛みを可視化する手法について紹介する.