齊藤 一幸, 中山 修, 浜田 リラ, 伊藤 公一
電子情報通信学会論文誌 vol. J82-B(no. 9) 1730-1738 1999年
ハイパサーミアは,がん細胞を加温することにより殺傷する治療法である.筆者らは,これまでマイクロ波によるハイパサーミア用加温装置である,同軸スロットアンテナの解析を行ってきた.ハイパサーミア用加温装置の特性評価にはアンテナ周辺の電界強度の2乗に比例する値であるSAR (Specific Absorption Rate)が広く用いられている.しかし,ハイパサーミアはがん細胞を加温する治療法であるため,実際の生体内での温度分布を知ることが望まれている.そこで本論文では,FDTD法を用いて生体内での同軸スロットアンテナ周辺のSAR分布を算出し,これを発熱源として生体熱輸送方程式を解くことにより生体内温度分布を算出した.この結果,刺入式アンテナである同軸スロットアンテナを用いた場合にも,脂肪層の熱伝導率が低いという理由などから,ここにホットスポットが発生する可能性があることがわかった.また,このシミュレーションの応用として,アンテナの給電電力をオンオフ制御した際の温度分布特性についても検討を行った結果,体内での温度分布の均一性を改善し,更に脂肪層中のホットスポットが低減できるなどの効果が示された.