栗原 伸一, 丸山 敦史, 霜浦 森平, 西山 未真, Luloff A. E, 廣瀬 牧人, 松田 友義
食と緑の科学 : HortResearch 60 99-108 2006年3月 査読有り
アメリカ産牛肉の輸入再開や鳥インフルエンザの流行などによって,国民の関心が再び高まっている「食の安全性」であるが,こうした社会的不安の背景として,最近のライフスタイルの変化や食品産業の巨大化に伴う情報の偏在を指摘できる.しかし,その最も根本的な原因としては,行政を含めたフードシステム関係者が,消費者に対し,食品を「安心」して買える環境を未だに提供できていないことをあげておかねばならない.わが国においても,HACCP等の普及により,「安全性」の確保については整備が進んでいるといって良いであろう.しかしながら,消費者にとっての安全性とは,実際には安心度と等しいものである.従って,業界関係者にとって最も重要な課題は,どのような情報をどうやって消費者に伝えることが彼らの信頼を得ることにつながるのかについて検討することであろう.本研究では,こうした問題意識のもと,消費者を安心させるためのシステム構築に資することを最終目的とし,2005年度から実施している調査研究の計画内容と成果について報告を行なった.本調査は,具体的には,国内外におけるトレーサビリティおよび食品のラベル表示についての現状と規制の動向を把握するための現地調査,および消費者に対する意識調査から構成されている.初年度に行った調査は,アメリカ東部での現地調査と,わが国の首都圏の主婦に対する郵送アンケート調査である.その結果,現地調査においては,(1)アメリカでも畜産物のトレーサビリティの導入が検討されてはいるものの,コストの問題などにより法制化が十分に進んでいないこと,(2)オーガニック食品の市場が急成長しているが,競争の激化により価格プレミアムが縮小していること,(3)様々な地域問題を解決する手段として,州政府が積極的にローカルフードのブランド化を推し進めていることなどが分かった.また,意識調査に関しては,牛肉,野菜,地元産農産物という対象財の違いによって3種類の調査票を作成し,1万件に配布した.現在回収中であるため,結果については紹介できなかったが,得られたデータを多角的に分析することによって,(1)食品を購入する際に,どのような情報を消費者は重視しているのか,(2)BSEに関連して,人へのリスクやアメリカ産牛肉の輸入再開についてどのように考えているのか,(3)地場産というブランドをどのように評価しているのか,などについて明らかになる予定である.また,研究2年目に当たる2006年度以降は,中国やEUなどでの現地調査,およびアメリカにおける電話による意識調査を実施し,国際間比較を行うことを計画している.