松尾 七重

[要約] 本研究の目的は，幼児期のパターンに関する研究について概観することであり，その結果，この研究分野における今後の課題を示すことである。そのために，2012〜2020年までの幼児期の数学教育に関わる文献について調べた。具体的には，数学教育と幼児教育に関する17種の雑誌論文を中心に，また，書籍の章や数学教育会議などの論文についても検索を行い，該当する文献を集め，それについてレビューし，それに考察を加え，まとめた。結果として，幼児期の文脈におけるパターンに関する研究の重要性が明らかになり，その主なテーマはパターン認識の数学的能力への効果を示すことであることが分かった。様々な数学的能力との関係性が示されているものの，長期的な研究の継続とその因果関係の根拠の解明が難しい点で，実際の学校教育の現場での効果は未だ解明されていない。パターン化，空間スキル，構造的思考などを数学教育と効果的に関連付け，統合する方法についての研究が今後期待される。

<p>本研究の目的は、就学前幼児向けの図形教育プログラムの効果を明らかにすることである。そのために、 先行研究や各種テストを参考に、幼児のもつ資質、能力に鑑みた幼小接続の観点から、未就学児向けに図形能力 を測る図形認識力テストを作成し、その結果を改善するための、幼児の持つ資質・能力に適合した図形教育プロ グラムを開発した。5 歳、6 歳の 13 名の園児に対し、約 2 ヶ月間定期的に株式会社プレイシップが開発したさん かく積み木(HEMPS)を活用した図形教育プログラムを実施し、その事前、事後で図形認識力テストを通して、 園児の認識の変容を分析した。その結果、特に図形構成力の改善が見られた。</p>

[要約] 本研究では，幾何学で用いられる思考の特徴を明らかにすることである。そのために，幾何学の歴史を振り返りつつ，ユークリッド幾何学，射影幾何学，位相幾何学，非ユークリッド幾何学，微分幾何学について概観し，それぞれの思考について比較し，それぞれの特徴を導き出す。その結果を基に，ユークリッド幾何学，解析幾何学及びベクトルを使って，三角形の垂心についての証明方法を例示する。結果として，以下のことが分かった。ユークリッド幾何学が全ての基本にあり，それを，解析学を通じて解決したのが，解析幾何学であった。ユークリッド幾何学の一公理の問題点の解決のために，非ユークリッド幾何学がつくられた。その発展として，微分幾何学が位置付けられている。射影幾何学や位相幾何学では，研究の対象が限定されている。幾何学の共通点としては，ある条件で不変な性質を調べることがその手法として採られている。

[要約] 本研究の目的は，実技教科の特性を生かした学びの過程での困難な状態に対する具体的な指導の手立てについて，実践事例等についての考察に基づき明らかにすることである。結果として，実技教科は他の教科の座学よりも，グループでの活動や実習等が多く，児童生徒の認知特性から学習の困難さの状態を考えるのみでは不十分であること，身体の動きや手指の不器用さを示す児童生徒の困難さに対しての個別の指導，課題の調整など細かな指導が実践の過程で求められること等を示した。

[要約] 本研究の目的は，学習指導要領の改訂に応じて，特別支援教育の視点を取り入れた各教科，すなわち，国語科，算数・数学科，理科，英語科，保健分野及び幼児教育の指導方法の具体例を明らかにすることである。結果として，ユニバーサルデザインと呼ばれるものに類する例，各々の障害特性に特化した支援や手立ての例を示すことができた。今後は，教科横断的に共通した有効な配慮や手立て，教科の特性上に生じる困難にのみ効果的な手立てなどについて考えることが必要であろう。

[要約] 本研究の目的は，学習指導要領の改訂に応じて，ICT活用の視点から，実技教科，すなわち，書道科，音楽科，図画工作科・美術科，家庭科，技術科における具体的事例を取り上げて，その実践のためのポイント等について明らかにすることである。結果として，各実技教科の特性に合わせたICTの活用方法は主として授業での教師によるICT活用，児童生徒によるICT活用等に当たるもので様々あることが分かった。今後は様々な組み合わせによるICT活用の新たな方法について再検討することが重要であろう。

[要約] 本研究では，就学前算数教育プログラムを実現させるために，就学前教育機関の教師等を対象とした研修プログラムを具体化することを目指している。そのため，本研究の目的は就学前算数教育機関の研修における「教材研究」場面の実際を明らかにする。そのために，まず，就学前算数教育のための研修のあり方について提案し，それに基づいて計画されたプログラムの中の「教材研究」の重要性を明らかにし，かさ比べの活動を例として，研修の実際を記述する。その結果，かさ比べの活動を通した研修を具体化でき，そのための留意点として，算数の専門家によるテーマの提案，幼稚園の年少，年中や小学校１年生の活動も併せて考える小学校教員と共に行う教材研究，教師自身が実際に活動しながら教材研究し，意見交換をする場の設定を示すことができた。

本研究の目的は就学前幼児と小学校低学年児童のための連携算数教育プログラムの開発を目指して,長さ測定に関する小学校1年生の実態を明らかにすることである。そのために,まず,小学校における長さ測定の学習指導や長さ測定に関する教師の捉え方を概観することで,小学校1年生の長さ測定の実態を明らかにする必要性を述べる。次に,Szil´agyiらの提案した長さ測定の発達過程を整理する。それに基づき調査過程を具体化し,小学校1年生を対象にした調査を実施し,その結果を考小学校1年生の実態を解明する。その結果,長さ測定の発達過程に従って調査を行うことで,直接比較,間接比較については1年生の学習指導前に十分に活動可能であることが分かった。一方,任意単位による測定では,単位の個数の多少が正誤に影響すること,ものさしの使い方は理解されていないこと,また,単位の大きさの違いと測定結果についての関係の要点は理解されていることが分かった。本研究は平成26年度科学研究費補助金(基盤研究C)24501040(代表者:松尾七重)の助成を受けて行われました。

本研究の目的は,就学前教育と小学校算数教育との円滑な接続を可能にするために,就学前教育と小学校教育の連続性を考慮した算数教育プログラム案を示すことである。そのために,算数科における数と計算,量と測定領域の学習指導内容の困難性に対する小学校教師の意識,及び幼稚園等での活動と,数と計算,量と測定領域の学習指導内容とのつながりに対する小学校及び幼稚園等教師の意識に関する調査結果を基に,就学前教育と小学校教育の連続性を考慮する必要がある内容を抽出する。そのうち,幼稚園等での活動を関連づけることで問題の解決が可能となる内容について,意識調査の結果とそこで生じた問題への対応策,幼稚園の体験実態,小学校低学年段階の算数の学習指導内容,幼稚園でのプレ体験,小学校での授業改善及びその効果という項目を含むプログラム案を作成する。結果として,何時何分のよみ・表現,長さ比べ等,21項目に関する案を作成できた。

本研究の目的は,小学校低学年の算数科における問題があると考えられる学習指導内容の中で,幼稚園等での活動に関連づけることで改善が可能となる内容を明らかにすることである。そのために,算数科における数と計算,量と測定領域の学習指導内容に対する小学校教師が感じる困難性についての意識と,小学校低学年の学習指導内容についての幼稚園教師の意識を調査し,両者の意識の差異を解明する。結果として,小学校教師が小学校低学年の算数科において困難性が高いと認める学習指導内容の中で,幼稚園等教師が幼稚園等での活動に直接つながると認めている学習指導内容があること,また,つながらないと認めている学習指導内容の中にも実際にはつながる可能性がある内容があることが分かった。これらの内容には幼稚園等での活動に適切に関連づけることで問題を改善できる可能性があると考えられる。

本研究の目的は幼稚園年長児に対する形構成,形置き換えの活動を取り入れた図形指導の効果を明らかにすることである。そのために,まず図形のdisembeddingに関する先行研究を整理し,次に我が国における図形のdisembeddingに関する幼稚園年長児及び小学校1年生の実態を解明する。その結果を踏まえ,幼稚園年長児における色板による形構成及び形置き換えの活動を取り入れた指導を実施し,この指導を受けた年長児に対して,図形のdisembeddingに関する事前事後調査を行い,その結果を比較し,分析する。結果として,1つのピースから成る三角だけを選んだ年長児の人数が減少し,色板による形構成・形置き換えの活動が図形のdisembeddingの改善に有効であることが分かった。