安藤 匡哉, 松本 毅, 渡辺 均
全日本鍼灸学会雑誌 70(2) 112-119 2020年5月 査読有り
【目的】日本の灸治療に用いられるモグサの国内生産量の低下に伴い、モグサ製造用ヨモギの安定供給に向けて、ヨモギの栽培効率やモグサの生産性を向上させる必要があると考えられる。そこで、国内生産に有用なヨモギ系統を明らかにするため、全国各地より収集した国内自生系統の形態評価、および生葉から製造したモグサの品質を比較することにより、効率的栽培への適性に関わる形態と葉乾燥重、およびモグサ収得率を指標として各系統を評価した。【対象と方法】国内127地点より採取したヨモギArtemisia princepsおよびオオヨモギArtemisia montanaの栽培個体を対象に、1.モグサ製造評価としてモグサ収得率、2.モグサ品質評価としてクロロフィル含有量および燃焼時の最高温度、3.ヨモギ形態評価として草姿に関わる形質、葉乾燥重、葉の背軸面の明度を調査した。各系統の形態および性質について比較するため、統計処理として主成分分析に供した。【結果】品質評価の結果、多様なクロロフィル含有量および燃焼時の最高温度が示され、国内系統においても幅広いモグサ品質を示すことが確認された。形態評価における主成分分析の結果、22系統が葉面積が大きく収穫が容易で効率的栽培に適した系統であることに加え、毛茸の量が多くモグサ収得率に優れ、全系統の葉乾燥重の基準値を上回る系統として抽出された。これらの系統には、従来の採取地域以外に、これまで利用されていなかった地域の系統が含まれることが確認された。今後、これらの系統を利用することで、各地域におけるモグサ用ヨモギの国内生産量の向上に繋がると考えられた。【結論】ヨモギの国内自生系統における形態、葉乾燥重、およびモグサ製造後の品質評価により、効率的栽培に適しており、葉乾燥重およびモグサ収得率に優れた灸利用に適する国内自主系統が抽出された。そのうち、従来用いられてきた採取地域における系統以外に、新たな灸利用への可能性が期待できる系統が確認された。(著者抄録)