大浦 佑馬, 林 広樹, 亀尾 浩司
日本地質学会学術大会講演要旨 2021 258 2021年
房総半島北東部の銚子地域に分布する鮮新–更新統犬吠層群は微化石を豊富に含む半遠洋性堆積物であり,これまでいくつかの年代層序学的研究が行われてきた(酒井,1990).この犬吠層群を対象として1998年に陸上ボーリングコアが東京大学海洋研究所によって掘削され,微化石層序,古地磁気,酸素同位体比から年代層序が確立され, 海洋酸素同位体比ステージ(MIS)11~24であることが明らかになっている (Kameo et al., 2006).このコアには,いわゆるEarly-Middle Pleistocene Transition (EMPT)を含み,氷期・間氷期サイクルが4万年周期から10万年周期へと変動する時代の環境変化を研究するためには非常によい試料である.特にMIS 19については離心率が現在と同じような状況に近いことから将来の気候変動予測に重要な時代であり(Head and Gibbard, 2015),気候変動と関連した海洋循環の消長を考える上で重要な地域といえる.そこで本研究では,浮遊性有孔虫化石群集を用いることによって,数千年スケールでの古海洋環境変動を推定することを試みた.本研究では犬吠層群に相当する地層のうち,横根層上部に相当する深度130~160 mを使用した.この層準に該当する年代は,MIS 17~19である.検討した試料間隔は,約1 mで,時間分解能は約2000~3000年である.乾燥させた各試料を熱湯で処理,ボロン法を用いることで泥化処理を行った. その後125 µmのふるいにかけて浮遊性有孔虫化石が200個体程度になるまで分割して顕微鏡下で全て拾い出し, 種の同定を行った.
検討を行った試料から15属42種の浮遊性有孔虫化石が認められた.全層準を通じて,Neogloboquadrina incomptaが高い産出頻度を占めし,次いで, Globigerinita glutinata, Turbolotalita quinqueloba, Globorotalia inflata などが高い産出頻度を示す.このことから, 銚子地域は当時ほとんど混合水域の環境下にあったと考えられる.しかし,黒潮水域に優勢なGlobigerinoides ruber, Pulleniatina obliquiloculataについては酸素同位体比曲線の温暖なピークと概ね一致することから,温暖時には黒潮の影響を強く受けていたことが考えられる.一方,親潮水域に優勢なNeogloboquadrina pachydermaの左巻も寒冷のピークと概ね一致するが, 産出頻度はそこまで高くないことから,銚子地域では親潮の影響は寒冷な時でもそこまで強い影響はなかったと考えられる. T. quinquelobaについては混合水域だけでなく塩分の低い沿岸水の指標とされている(Takemoto and Oda, 1997). T.quinquelobaが高い産出頻度を示した層準は,氷期への移行期に相当するように見えるので,寒冷化に伴って海水準の低下が起こり,その結果,西方からの沿岸水の影響が強くなったことが考えられる.以上より氷期・間氷期サイクルより短い時間スケールでの黒潮・親潮の南北振動が銚子地域で起こっていたと考えられる.
引用文献
Head and Gibbard,2015,Quat.Int.,389,7-46
五十嵐ほか,2002,地質学会講演要旨
Kameo et al.,2006,Island Arc,15,366-377
Takemoto and Oda,1997, Paleontolog. Res.,1,4,291-310
酒井,1990,宇都宮大教育紀要,23,1-34