菊池 安希子, 藤井 千代, 椎名 明大, 平野 美紀, 小池 純子, 河野 稔明, 五十嵐 禎人
日本社会精神医学会雑誌 30(1) 20-34 2021年2月
本研究では英国で実施されたDangerous and Severe Personality Disorder(DSPD)事業の構想から終焉までを概説し、本邦の対応困難患者の処遇への示唆について考察した。DSPDはパーソナリティ障害者による重大事件をきっかけとして提案された行政的基準である。DSPD事業はパーソナリティ障害に有効な治療を開発すると期待されたが、治療法の無作為化比較試験は実施されず、費用対効果も否定された。実施施設では必ずしも高密度の処遇がされず、有効な治療のないまま患者を長期間拘禁する事業であると批判された。結果としてDSPD事業は廃止され、医療・刑務所・保護観察の連携によるサービスに後継された。これらの経過から、本邦において対応困難な精神科患者の高規格病棟を検討する際には、(1)包含基準として精神医学的に妥当な定義が存在すること、(2)エビデンスに基づく治療法が存在すること、(3)退院基準が明確であること、(4)退院後の地域移行をサポートするシステムが存在すること、(5)第三者評価が入ること、が重要であり、当事者との協働および人権保護に配慮した慎重な議論が求められることが示唆された。(著者抄録)