上松 敬禧, 島津 省吾
石油学会誌 37(1) 1-9 1994年
合成粘土の層空間を修飾し金属錯体を活性種として導入して, 分子認識触媒機能を設計するための要素的方法の開発を行った我々の試みを中心にまとめた。膨潤性粘土の層状構造は金属錯体を導入して固定するのに好適な材料であり, 化学固定, イオン交換, 分子間力などによって活性種の層間への導入が可能である。さらに, 層間の反応場の修飾は"チューニングゲスト"の導入によっても可能であり, 層空間の幾何学的大きさ, 疎水/親水性や不斉反応場などの制御によって, 分子認識的触媒反応場が形成される。<br>ここでは層間の反応場を利用する分子認識の要素的機能を個別に検討した結果, 層間錯体による脂肪族アルキンや脂肪族アルデヒドの鎖長選択水素化, 共役ジエン類に対する高選択的水素化, 芳香族アルデヒドの異性体の選択的水素化を見い出したほか, 多重修飾層間によるゲラニオールの位置選択水素化, 環状カルボニルのシスートランス選択水素化などに成功した実例を示す。<br>また, われわれはホスト空間の修飾に際して, 触媒活性以外の機能を分担させる目的で導入するチューニングゲストの概念を確立して来たが, この第三のゲスト分子に不斉認識機能を分担させる方法を開拓し, さらに高度な分子認識である不斉認識反応場の開発を試みた。その結果, R-またはS-体のアルキルアンモニウムで不斉修飾した層間が, それぞれS-およびR-体のヘテロ対を形成する不斉認識を見い出した。さらに, 触媒配位子とチューニングゲストのキラリティーのヘテロな組合せ (R-S; S-R) が (-) ネオメントンの水素化により優れた不斉認識機能の発現を認めた。以上の結果から多重認識による高度分子認識触媒への道を提唱した。