松下 一之, 竜 崇正, 佐野 友昭, 渡辺 一男, 藤田 昌宏, 本田 一郎, 坂本 薫, 渡辺 敏, 川上 義弘, 吉田 雅博, 河邊 統一, 和田 勝則, 小松 悌介
日本消化器外科学会雑誌 24(7) 2041-2045 1991年2月1日
近年報告例が増加している肝嚢胞腺癌のうち, 肝嚢胞腺腫から発生した症例と, 単純性肝嚢胞から発生した症例の2例を経験したので報告する.<BR>症例1は49歳男性.主訴は突然の上腹部痛, 肝外側区域の一部に乳頭状増殖を示す嚢胞を認め, 肝左葉切除術を施行したところ, 肝嚢胞腺腫から発生した嚢胞腺癌であった.症例2は73歳の女性.肝左葉の単純性嚢胞で5年間経過観察中, 嚢胞の一部に腫瘍の増生を認めたため, 肝左葉切除術を施行した.病理診断は単純性嚢胞から発生した嚢胞腺癌であった.<BR>肝嚢胞腺癌の本邦報告例106例中, 記載の明らかな69例を調べると, 単純性肝嚢胞から発生27例, 肝嚢胞腺腫から発生18例, 本来の肝嚢胞腺癌24例であった.この内, 単純性肝嚢胞の経過観察中に発生したものは4例で, 単純性肝嚢胞でも, 癌化を念頭におき, 注意深い経過観察が必要であると思われた.