中島 功, 大塚 洋幸, 市村 篤, 本多 ゆみえ, 梅澤 和夫, 守田 誠司, 中川 儀英
日本救急医学会関東地方会雑誌 42(3) 63-66 2021年6月30日
福島第一原子力発電所事故 (以下, 福島原発事故) では, 政府から自治体に対する連絡が遅れたばかりではなく, その深刻さも住民に伝えることができなかった。事故の発生を知った住民の割合では避難指示の発令と住民が知った時間には遅延が認められ通信回線や情報伝達が満足できる環境ではなく, 人によっては幾度となく避難場所を変更させられ, 線量の高い地域への移動を余儀なくされた。甲状腺を飽和させ放射性同位元素であるヨウ素I131の取り込みを抑える目的で, ヨウ素製剤を配布しなければならなかったが, 多くの市町村で配布服用できなかった。福島原発事故の教訓として, 災害時は現場が混乱し一人ひとりに錠剤を手渡し, 説明する作業は困難をきわめるため, 30km圏内の住民に対しても事前にヨウ素製剤を配布し, 背景や副作用を学習させることが望ましい。これはパンデミック対策のTargeted Antivirus Prophylaxis (TAP) に通じるところがある。