堀井 真人, 赤木 龍一郎, 山口 智志, 木村 青児, 小野 嘉允, 渡邉 翔太郎, 篠原 将志, 細川 博昭, 三上 行雄, 大鳥 精司, 佐粧 孝久
JOSKAS 46(3) 707-712 2021年10月
全身弛緩性と運動器疼痛の関連を示唆する報告が散見されるが,本邦小児における全身弛緩性の陽性率や,成長期に生じる膝・踵部痛との関連は不明である.そこで本研究の目的は小・中学生の全身弛緩性の評価を行い,膝・踵部痛との関連を調査することとした.対象は,2016〜19年度までに学校運動器検診を受けた9〜15歳の小・中学生とした.対象者背景として性別,身長・体重を記録し,膝・踵部痛の有無に加えて全身弛緩性を評価した.膝・踵部痛は膝3 ヶ所,踵1ヶ所の圧痛を左右で確認し,1 ヶ所以上で痛みを認めた場合に膝・踵部痛ありとした.全身弛緩性はBeightonscore(以下,BS)を用い,5点以上を全身弛緩性ありと判定した.年度ごとに各年齢におけるBSの中央値と全身弛緩性の陽性率を集計し,全身弛緩性の有無による膝・踵部痛の有無のオッズ比について解析した.有意水準は5%未満とした.対象者は837〜865 人で性差は1:1,平均BMIは17.5〜17.8 kg/m2であった.膝・踵部痛を有する割合は5〜13%であった.2018年度の9歳児を除くすべての年齢で,BSの中央値は0〜1であった.年度ごとの全身弛緩性陽性率は1.1〜5.0%であった.また,膝・踵部の圧痛と全身弛緩性がともに陽性となった児童生徒は0〜0.2%と非常に少なく,膝・踵部の圧痛の有無と全身弛緩性に明らかな関連を認めなかった(p=0.31〜0.83).小児の全身弛緩性陽性率は,海外では4.0〜18.6%,本邦では7.5%と報告されている.本研究での全身弛緩性陽性率は,1.1〜5.0%と諸家の報告と比較して低い結果となった.全身弛緩性は年齢や人種・性に関連するとされており,対象年齢や人種の相違が影響したと考えられた.加えて,BSのカットオフ値は4〜6と様々であったことも影響したと考えられた.運動器疼痛と全身弛緩性の関連については一定の見解はないものの,本研究では膝・踵部痛と全身弛緩性を同時に有する児童がほとんどおらず,また,膝・踵部痛の有無と全身弛緩性との間に,統計学的に有意な関連はみられなかった.(著者抄録)