長嶺 由衣子, 辻 大士, 近藤 克則
厚生の指標 62(12) 1-8 2015年10月
目的 2015年4月からの第6期介護保険事業計画では,地域づくりによる介護予防に重点がおかれ,以前にも増して地域診断の重要性が高まっている。本研究では,市町村単位の地域診断の参考指標を探索するため,高齢者の1日平均30分以上などの歩行者割合(以下,歩行者割合)と転倒者割合の間に相関があるか,経年変化でも歩行者割合が増加した市町村ほど転倒者割合は減少したか,高齢者の歩行者割合と関連する地域要因は何かについて,地域相関研究を行った。方法 本研究は2010年に全国31市町村,2013年に全国30市町村で実施された日本老年学的評価研究(JAGES)から,両時期に参加した23市町村を対象とした。前期高齢者・後期高齢者は層別化した。転倒者割合と歩行者割合についてスピアマンの順位相関分析にて相関係数を算出し,続いて歩行者割合が増加した市町村ほど転倒者割合は減少したかを明らかにするため,2010年から2013年への3年間の両変数の変化量間の相関係数を算出した。最後に,対象者の属性,環境等の変数の集計値と歩行者割合の相関係数を算出した。結果 歩行者割合は2010→2013年で,前期高齢者70.9%→79.1%,後期高齢者59.8%→71.0%と増加していた。両年で前期高齢者・後期高齢者とも,歩行者割合と転倒者割合の間に負の相関が認められた(ρ=-0.18〜-0.67)。3年間の両変数の変化量間の相関では,歩行者割合が増加した市町村ほど転倒者割合が減少していた(前期高齢者ρ=-0.53,後期高齢者ρ=-0.37)(ρ<0.05,ρ<0.1)。歩行者割合と繰り返し有意な相関を認めた要因は,前期高齢者でスポーツ組織参加,趣味の会参加,自宅から1km以内に運動・散歩に適した歩道あり,で正の相関,等価所得200万円未満で負の相関を認めた。後期高齢者では,自宅から1km以内に運動・散歩に適した歩道あり,で正の相関を認めた。結論 歩行者割合が高い市町村では転倒者割合が低く,歩行者割合が増加すると転倒者割合は減少するという経時的変化も確認された。同時に,歩行者割合と関連するいくつかの地域要因も認めた。今後,市町村を単位として高齢者の転倒状況や歩行状況を把握し,さらにそれらの経年変化を評価することは,地域診断や市町村の転倒予防事業の評価を行う際に有益と思われた。(著者抄録)