芦田 登代, 近藤 克則, 平井 寛
厚生の指標 59(12) 12-21 2012年10月
目的 厚生労働省の目標値よりも健診受診率が低いことが指摘されている。そこで,どのような人が健診を受診しているのか明らかにすることを目的に,ポジティブな心理要因(将来の楽しみ),うつ,所得などと受診経験の有無との関連を分析した。方法 愛知老年学的評価研究(Aichi Gerontological Evaluation Study,AGES)プロジェクト2006〜2007年調査データの一部を用い要介護状態でない高齢者15,726人を分析対象とした。目的変数は健診受診経験の有無,説明変数は「将来における楽しみ」の有無,年齢,性別,等価所得,教育年数,婚姻状態,就労状態,主観的健康感,IADL,現在治療中の疾患の有無,高齢者うつ尺度15項目版(GDS)の計11変数とし,ロジスティック回帰分析を行った。結果 変数をすべて同時に投入すると,「将来の楽しみ」がない者に比べある者が健診を受診したオッズ比(OR)は,男性で1.25,女性で1.45であった(p<0.01)。等価所得については,100〜200万円未満のグループと比較すると,400万円以上では男女1.27(p<0.01),男性1.57(p<0.01)と有意に高かったが,女性では1.10で有意な関連はみられなかった。うつと楽しみの有無とは関連がみられたが,両者を同時投入すると,男女ともうつは有意ではなくなり将来の楽しみのみが有意なORを示した。さらに,等価所得階層間で「将来の楽しみ」の有無と健診受診経験「有」の確率を比較すると,高所得層で「将来の楽しみ」がない人より,低所得でも楽しみのある人の方が受診経験「有」が多いという結果が得られた。結論 将来の楽しみがある人・高所得の人において,男女ともに健診を受診した者が多く,うつと比べ将来の楽しみがあることの方が健診受診経験との関連が強く,所得が低くても将来の楽しみのある人のほうが,高所得で楽しみがない人よりも健診受診経験が多いことが示された。これらのことは,健診受診行動には,社会階層や将来の楽しみ等が関連していることを示唆しており,健診受診の促進には受診勧奨だけではない,総合的なアプローチの必要性が示唆される。(著者抄録)