MOMOHARA Arata, MIZUNO Kiyohide, TSUJI Sei-ichiro, KOKAWA Shohei
第四紀研究 29(1) 1-15 1990年 査読有り
和歌山県橋本市北部の菖蒲谷層の大型植物化石群を記載した. 絶滅した21分類群を含む220分類群を同定し, 下位よりSB-I~SB-VIの6分帯を設けた. SB-II帯とSB-V帯は, 亜寒帯に分布する分類群と冷温帯に分布する分類群を含むことから, 寒冷と考えられ, 一方, SB-I帯とSB-III帯, SB-IV帯, SB-VI帯は, 冷温帯に分布する分類群と亜熱帯や暖温帯に分布する分類群を含むことから, 温暖な気候が考えられる. このうち, SB-III帯では亜熱帯に分布する分類群と冷温帯に分布する分類群が共存し, 冬期は温暖で夏期が冷涼な海洋性気候が考えられる. SB-VI帯では, 亜熱帯や暖温帯に分布する分類群が普通で, 冷温帯に分布する分類群は稀なことから, SB-III帯よりも夏期の気温が高かったと考えられる. メタセコイアを含む植物群の消滅と出現の層位から, 調査地域の菖蒲谷層は前期更新世に対比することができる. サイクロカリア, シナサワグルミ近似種, オオバラモミの前期更新世後半の絶滅は, 冬期の気候の寒冷化が原因と考えられる. メタセコイアの絶滅の原因として, 冬期の漸移的な寒冷化に加えて, 夏期の気候の温暖化と生育地の古地形の変化を考えた.