梅田 克樹
経済地理学年報 45(3) 171-195 1999年
生乳計画生産制度が導入された1979年度以降, 競争制限的作用の強い同制度とその運用方式が, 酪農地域の動向を強く規定してきた.本研究では, 計画生産期における酪農地域の再編成要因を, 制度運用の地域性との関連において検討した.1987年度以前は, 硬直的な制度運用が, 生乳需給をしばしば不安定化させていた.そこで, 各指定団体に対する生産枠の配分方式が改められ, 多頭育化が実現しやすくなった.その結果, 一部の生産県に生乳生産力が集中するなど, 生乳生産配置の再編成が生じた.次に, 愛知県を事例として, 一部地域に偏って多頭育化が進行した要因を検討した.県内で多頭育化志向が特に強かったのは, 乳業資本による垂直的統合を回避し, 有利な生乳販売条件を確保していた半島部3大組合だった.その一方, 都市化圧力に曝された大部分の酪農組合は, 新規投資の回避と短期的な利益獲得を求めた.そこで, 需給調整リスクの集中的負担を条件として, 計画生産枠の緩やかな移動を容認した.指定団体である愛知県酪連は, 計画生産枠の配分方式における選択性を高めたり, 期別制や夏季乳価を導入するなど, 独自の制度運用方式を採用して多頭育化を促進した.その結果, 特に1988年度以降, 半島部3大組合への生乳生産力の集中化と, 県内酪農家の階層分化が急激に進行した.このように, 地域独自の制度運用による競争制限的作用の緩和が, 酪農地域の再編成を招いていた.