泉 康雄, 倉片 洋, 秋鹿 研一
表面科学 17(5) 242-248 1996年 査読有り招待有り
Seを含んだ金属クラスターの構造,電子状態を制御し,効率よく選択的な触媒作用が進行する系を開発した。Se原子をRh原子10個の骨格内に包蔵した[Rh10Se(CO)22]2-クラスターをTiO2に担持した触媒は,CO2をエタノールに高活性(8.0mol・cluster-1min-1)かつ高選択的(~83%)に転換した。触媒反応前の真空処理温度とエタノール合成活性との関係をみると,623Kで真空処理した場合に活性最大となった。Rh,SeK吸収端EXAFS解析より,Se-Rh結合距離は623K真空処理のとき2.41Åで極小値をとり,活性最大温度と対応した。包蔵Seを取り囲む[Rh10]クラスター骨格は真空処理温度を上昇させていくに従って,目玉焼きの白味のように中心のSeを覆ったまま徐々にTiO2表面に2次元的に広がったと考えた。XPSおよびSeK吸収端XANES測定より,包蔵Seはelectron acceptorとして働いていることが分かった。以上から,バルク内部Seからのコントロールにより,Rh表面でのメタン生成が抑制された(ロジウム金属的からロジウムカルコゲナイド的になった)と考えられる。 一方,[Rh10Se(CO)22]2-の代わりに炭素を包蔵する[Rh6C(CO)15]2-や何も包蔵しないRh6(CO)16クラスターを用いた場合,あるいは[Rh10Se(CO)22]2-をSiO2,Al2O3またはMgOに担持した場合はいずれもエタノールへの転換の効率が非常に悪いかゼロだった。エタノール合成に必要な因子として,上記の包蔵SeによるRh表面のコントロールのほかに,[Rh10Se]とTiO2との界面にCHyOz種ができる必要があると考えられる。このCHyOZ種が,素早くRh上のCHxと反応することにより,エタノールが選択的に合成されたものと推定した。[Rh10Se]クラスターをTiO2表面への吸着分子と考え,その構造変換,電子状態の変化と触媒作用との関わりについて述べる。