陳 誼菲, 青木 宏展, 植田 憲
デザイン学研究 71(2) 2_45-2_54 2024年9月30日 査読有り
本稿では,中国広東省汕頭市澄海地域にて行われてきた年中行事における潮汕紙銭の使用実態を概観し,それらに表出する紙銭の特質を明確化することを目的としたものである。調査・考察の結果,澄海地域における年中行事にみられる紙銭の特質は以下の3点にまとめることができた。(1) 多様な祭祀を演出し,人びとの豊かな創造力を顕示する,(2)一年の区切りを明確化し,生活のリズムを顕在化する,(3)人びとのつながりを明示・強化し,コミュニティの結束力を高める。紙銭のデザインとその使用により,人びとは鬼神への畏敬と先祖への敬意を表現し,コミュニティ内で共に遵守すべき生活規範と社会秩序を形成し維持している。この営みにおいて,人びとは自らの生活様式に適応する形に紙銭を再構築し,各地域で独自の生活文化を築き上げている。紙銭の特質の明確化を通じて,人びとの紙銭文化に対する再確認と再認識を促進することは,村落の自律と自立の発展にとって極めて重要であると考えられる。