七澤 朱音

<p> 教師の力量形成が求められる中、日々の授業環境を変えずに行える校内研修の役割が高まっている。特に、校内の同僚で互いの授業について検討し力量を高め合う「同僚性（collegiality）（秋田，1998）」は、教師の成長を支える有効な方法として着目されている。しかし、ここでも授業で生起した出来事に対する省察の方法論には課題が残されている。本研究は、授業中に三者が協働しながら目の前の問題を修正し、よい授業を導く校内研修の成果と課題を検証することを目的とした。対象者は、初任教師・熟練教師（教務主任）・体育科教育学の専門家であり、この三者は授業中に無線を通じて"即時的"に授業改善を行っていった。授業は、平成29年１月に実施したバスケットボール単元（全６単位時間）とした。結果、初任教師は、より効果的な学習指導の場所や発問内容、相互作用行動においては即時的修正ができた一方で、学習内容等の教授内容に関わる事柄や、ゲーム中の各チームの実態について正確に見取りを行うこと等は困難であることが明らかになった。</p>

<p> 教師は、授業を実施する際に多くの情報処理を同時に行っている。学習指導・マネジメント行動など、その教授行動の背景には教師の意思決定（省察）が大きく関係している。吉崎（1983）は、録画したビデオを授業者に視聴させ、その時々の教授行動の意思決定を求める「VTR中断法」を用いた。これらを捉えようとする方法論としては他に「再生刺激法（吉崎、1992）」や「発話プロトコル法（小澤、2011）」などが知られる。しかし、これらの方法は、授業が終わってから教師にその時々の意思決定を思い出させるため、授業の"まさに今ここ"で行なわれている意思決定（省察）の実態を捉えきれていないのではないだろうか。本研究は、アメリカンフットボールの無線機を用いて、授業中に熟練教師が採った教授行動の理由（発話）を第三者がリアルタイムに把握し、その後第三者の介入により授業者の不可視な思考過程を引き出すことを目的とした。検証授業は、平成27年7月・11月に実施、「体つくり運動」とした。発話を分析した結果、11月の実践では教師が技能下位児童に着目して「もどる・とどまる・すすむ（吉崎、1983）」意思決定をしていることが明らかになった。</p>